ダムの緊急放流なぜ?しなかったらどうなる?事前に出来ないの?

雑学


令和元年台風19号ではダムの緊急放流を行った地域が数か所ありました。

でも緊急放流すると下流地域が大変な事態になるのに、なぜ行ったのでしょうか。
逆に、しなかったらどうなるのでしょうか。
また、「ダム放流事前にしておけば良かったのに」と非難の声もあったのですが、実際にできなかったのでしょうか。

今回は、ダム放流に関するこれらの疑問についてまとめました。

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ダムの緊急放流なぜやるの?

ダムの緊急放流は、大雨でダムの水位が限界となった場合に行う操作で、流入量とほぼ同じ量の水を下流に流すことです。(くれぐれも、ダムの水を全て流すというような乱暴な操作ではありません!)

ダム管理事務所では、台風により大雨が降ることが予測された場合にどのくらいの水量が流入するかを想定してギリギリの水位まで放流していますが、想定を上回った場合には実施しなければなりません。

ダムは普段、川を堰き止めていますが、大雨の場合には水量が多くなるため全て堰き止めることが出来ません。そのため、下流河川の様子を見守りつつ、河川が氾濫しない程度ならそのまま放流し、大雨で河川の水位が急激に上昇して氾濫しそうな場合にダムが水を一時的に堰き止め、少しずつ時間をかけて安全を確認しつつ流しています。

ですが、今回のように、ダムの水位が上がり過ぎて決壊の危険性が生じた場合は、緊急放流という形で水を下流に流すことになります。

実際に緊急放流した場合は下流河川が急激に増水して氾濫する可能性が高いので、周辺にいる人々は氾濫前に影響の及ばない場所まで避難しないといけません。逃げ遅れて氾濫に巻き込まれた場合、非常に強い水圧のかかった濁流に襲われてしまうので、そこから逃れることは不可能なのです。

ただ、ダムについてよく知らないと、「緊急放流」という言葉のイメージから「貯まった水を全部流すのか!?」と恐怖を感じるかもしれません。ですが、緊急放流は「元々上流から流れてきた水量をそのまま下流に流す」ということで、ダムが無かったら、既に下流に流れていたはずの水なのですよね。もし、緊急放流によって下流が洪水になったとしたら、ダムが無かった場合はとっくに洪水になっているはずです。つまり、ダムは氾濫を遅らせるための「時間稼ぎ」に過ぎないのです。

では、「下流が洪水になったら大変だから、そのまま緊急放流をするのはやめよう」となった場合はどのような事態になるのでしょうか。

次に、緊急放流しなかった場合に起こり得ることをお話しします。

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ダムの緊急放流しなかったらどうなるの?

ダムの緊急放流をしないまま大雨が降り続いて最高水位を超えてしまうと、緊急放流した場合よりも更に大変な事態に陥ってしまいます。

ダムの種類によって異なりますが、コンクリート造の場合はそう簡単に決壊しないものの、ダムが満杯になるとダムの上から直接下へ水が流れるようになります(越流)。そうなると、ダムに浮いている大量の木等が流れ落ちて下流へ運ばれてしまうし、ダムの上に設置されているゲート操作のための機器が水没してしまい制御不能となるし、ダム構造が部分的に破壊される可能性が高く大変危険なのです。

一方、土や岩によるダムは水による浸食に耐えられずに決壊の恐れがあります。満水位からてっぺんまでの高さはコンクリート造に比べると沢山確保されているとはいえ、自然の力は侮れないのでダムが溢れる前に早めの対処をしないと危険です。

ダムが決壊したらどうなるの?

万が一ダムが決壊すると、溜まっていた水が一気に下流に流出してしまい、緊急放流の水量や勢いでは済みません。また、それ以外にダムの建材破片やダム底に溜まっている物も全て流出してしまい、下流の地域に甚大な被害が及んでしまうのです。

ちなみに、ダム決壊は過去に世界各地で発生しています。昔の事例では、アーチ式ダムで作られたフランスのマルパッセダム(1954年に造られた水道灌漑用水用ダム)が有名です。1959年12月2日の大雨により決壊し、下流の2つの村(マルパッセ、ボゾン)が飲みこまれてしまい、死者421人という大惨事になりました。その時の流水は高さ40m、時速70kmに達したとされています。

また、最近では、2018年7月23日におけるラオスのセーピアン・セーナムノイダム(メコン川支流セコン川)の決壊があります。ここは大型水力発電の建設中であり、決壊の大きな原因は欠陥工事だったと言われていますが、その集中豪雨による被害は甚大で、ダムの決壊で死者行方不明者が100名以上、家を失った人が数千人ともいわれています。

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ダム放流は事前に出来なかったの?

「緊急放流するなら、あらかじめ放流しておけば良かったのに」という声が沢山出ているのですが、実際には城山ダムについては予備放流を行っていました。(また、ダムでは洪水時だけでなく、日々、ダムや周辺の河川の水位等を時間毎に継続観測して、流入量と流出量のバランスが保てるようにしながら放流しています。)

◾️城山ダムの状況はこちらのサイトで確認できます。
国土交通省:川の防災情報(城山ダム)

では、今回のように大雨が降ると分かっていた場合、どこまで減らせるのでしょうか。

ダムによって数値は異なりますが、いくつか定められている水位があります。
城山ダムの場合は、

洪水期最高水位(サーチャージ水位)・・・標高125.5m
常時満水位・・・標高124m
洪水期制限水位(洪水貯留準備水位)・・・標高120m
予備放流水位・・・標高113m
最低水位・・・標高95m
河床高・・・標高72m

となっており、10/12の夕方は予備放流水位のギリギリまで引き下げるべく、114m程度まで頑張っていました。
ですが、その後の台風到来であっという間に水位が上昇したため、午後9時半に緊急放流となったのです。

今回の緊急放流と予備放流については、神奈川県知事による以下の動画が分かりやすいです。

さいごに

緊急放流は入った水量と同じだけ放流するということであり、ダムの水全てを放流することではありません。緊急放流は悪だというイメージがありがちですが、そうではなく、下流が氾濫するのをダムが頑張って耐えて時間稼ぎしてくれていただけのことで、ダムが無ければ既に川が氾濫して大変な事態になっていたはずです。
ですから、もし緊急放流が行われる、ということがお住まいの地域で発表されたら、「本当にやるのか分からない」と思わず、速やかに避難することが大切です。

ちなみに、今回全国的なニュースでは緊急放流について1時間前に突然告知されたようなイメージでしたが、神奈川県では、城山ダムが緊急放流になった場合に影響の出る可能性のある下流域の複数の自治体の役場や警察には昼間のうちに避難するよう通達が流れていて、その時から大勢の市民が避難していました。

今後も、今回のような緊急放流が行われるダムがあるかもしれませんが、その際には影響のある地域に住んでいる場合は自治体の避難勧告などをきちんと聞き、速やかに行動することが重要でしょう。

■「ダムの事前放流をしなかった」という誤ったニュースがなぜ出たのかはこちらの記事をご覧ください。
城山ダム事前放流しなかったの?予備放流では空っぽに出来ないの?

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